kappaa 雑記帳

オーク ( oak ) の木はカシ?ナラ?それともカシワ? その2

その1

06/10/1

まず、調べ始めて最初に見つけたのはこのページです。 昔日本では木材としてのナラ(楢)の評価が低く、ヨーロッパでありがたがられている oak が楢であるはずがないとの思い込みから誤って カシ(樫)と訳されたが、正しくは楢のことであるということが書いてあります。

そして Wikipediaのカシの項目ではこのような記述を見つけました。

英語のoakという単語(他のヨーロッパ言語も同様)には、常緑性のカシと、落葉性のナラの区別がない。ヨーロッパにおける常緑性のカシ類の分布は南ヨーロッパに限られており、イギリスをはじめとする中欧・北欧に分布するoakは、日本語ではナラと呼ぶのが正しいと思われるが、カシと翻訳されている例がかなりあると見られる。

これもどちらかというと oak は楢と訳すのが正しいという考え方ですね。そしてその根拠を常緑性と落葉性の違いに求めているところに説得力があり面白いと思います。

カシとナラの違いについては Wikipediaの「ドングリ」 も参考になります。

ドングリを作るブナ科植物は、暖帯から温帯にかけての森林では、どこでも主要な構成樹種である。暖帯では常緑のシイ・カシ類が照葉樹林の主要構成樹種であり、温帯ではブナ・ミズナラなどが落葉広葉樹林の中で占める割合が大きい。

おおざっぱに言えば、どちらもブナ科の仲間だけれどナラは寒いところ、カシは暑いところを好むということですね。昔英国などの帆走軍艦の材料になっていたのは寒いところに生える落葉樹だったのだからナラが近いということになります。

そこでためしに「楢葉 + 十字章」で検索してみると、「該当するページが見つかりませんでした。」と。まあそうでしょう。 「ナラバ付き騎士十字章」なんて聞いたことありません。

それに「楢葉付き騎士鉄十字章」と呼ぶことにすると困ることがあるのです。それは葉の形です。

日本でいうナラの葉はこんな形です。

Goo's Homepage 樹木図鑑: コナラ

縁に鋭く細かいギザギザがあって、騎士十字章についてるあれとはだいぶ違います。縁がこれくらいあるいは これくらい大きい波型 をえがいていてくれないと困ります。

では日本でいうカシの葉はどんな形かというと輪郭線に凹凸は無くまっすぐで、もっと似ていないのです。

Goo's Homepage 樹木図鑑: アカガシ

やはりデザイン的な観点から葉の形だけを問題にするなら、同じ仲間のカシワが日本にある木のなかでは最も似ているということになります。常緑か落葉かという点については、葉を完全に落とさないことが多いものの落葉樹に分類されるそうです。「柏葉付き騎士鉄十字章」というのは、 これはこれで的確な訳語だと思います。

Goo's Homepage 樹木図鑑: カシワ

それにしても、ヨーロッパで船の建造に使われたオークと日本で柏餅を包むあのカシワが同じということではないでしょう。(と考えるのもあるいは思い込みか?) 上記 Wikipediaのカシの項目にあるように、 ヨーロッパにもオークの仲間はいろいろあるのでしょうが、一つの答えらしきものはここにありました。

Y.HADA'S Home Page: ブナ科 Fagaceae (トップページはここ

ナラはナラでも日本にはないフユナラがそれではないかと。 葉の形はまさに騎士十字章のあれです。

それではと、"Quercus petraea"という学名で検索すると、 こんなページが。 ドイツ語で Steineiche という木のことについて述べられていて、ローマ人が橋を架けるときに橋脚の基礎としてこの木の杭を打ち込んだらしいことがわかります。 同じ種のことだとすると「フユナラ」以外に「オウシュウエナシナラ」という和名もあるようですね。

また、ここによるとこれは英国に自生する2種のオークすなわち "Quercus petraea"(英名 Sessile oak)と"Quercus robur"(英名 Pedunculate oak )のうちの片方 だそうです。wikipedia英国大使館のサイトにも解説があります。

ここに両者の見分け方が書いてありますが、 "Quercus robur"はどんぐりに柄(え)があるのに対し"Quercus petraea"のほうはどんぐりに柄がなく、枝に直接くっついているそうです。 ということは、先ほど出てきた「オウシュウエナシナラ」という和名は、「欧州柄なし楢」という意味だったのでしょう。

英名の "Sessile Oak" で検索するとスコッチの樽について書かれたこんなページも。

スコットランドのオークはセシル・オーク(Sessile Oak: Quercus petrae)で、フランスのコニャックの熟成に使われるオークと同種、イングランドやスペインのコモン・オーク(Common Oak: Quercus robur)とは種類が異なっている。

どうやら、英国に限らずヨーロッパ全体で一般的なオークといえばこの2種であるようです。そのうちのひとつの和名が、「フユナラ」または「オウシュウエナシナラ」であることがわかりました。

ではもう一方の"Quercus robur"はというと、この切手関係のページに以下の情報があります。

ヨーロッパナラ

英名:Common oak, Pedunculate Oak, English Oak

ヨーロッパでもっとも普通にみられるナラ。ヨーロッパからカフカス、小アジア、アフリカ北岸に広く分布。樹高25m以上になる落葉樹。果実は1年で熟し、食用やコーヒーの代用として利用された。葉にできる虫こぶや樹皮はタンニンの原料とされた。

 巨木となりしばしば落雷に見舞われるため、神の宿る木としてあがめられた。街路樹や公園樹としても好まれる。

「欧州柄あり楢」とはいわないのでしょうか。ヨーロッパナラという和名が「柄あり」のみを指すのか、「柄あり」と「柄なし」の両方をさすのかも よくわかりません。最初に記した「近代世界艦船事典」の記述によると 両者の総称のように思えますが。いずれにせよヨーロッパでいうオークは、もっとたくさんあるにしても、歴史的、文化的にはこの2種に代表させてかまわない ようですね。

と、いうことは、
これは「ヨーロッパナラ葉付き騎士鉄十字章」!?

こういったことを調べてきて思ったのは、昔は日本を含む北半球の温帯のかなりの部分がこの手の木々に覆われていて、それらは人間にとって非常に身近なものだったのではないか、 ということです。縄文時代の人々はその生存に必要な栄養の大きな部分をどんぐりに頼っていたそうです。 (私は今でもどんぐりが落ちているのを見るとなんとなくうれしい気分になります。もしかすると遺伝子に組み込まれた太古の記憶?) 今の日本で森林といえばほとんど植林のスギ林のことみたいですが、そうではない壮大な景色を想像してしまいます。

それにしてもなぜオークの葉が世界中で特に軍隊関係のシンボルマークや階級章のデザインに使われるようになったのでしょう。 wikipedia の oak の項目に「オークは、強さと忍耐力の一般的なシンボルであり、イギリス、フランス、ドイツ、および合衆国の国家の木として選ばれている」と あるように、昔から人気のあるシンボルで、軍隊関係に限らず紋章などのデザインによく使われてきたようですが、とくに軍隊との関係について解説したものはないかと探しました。 Stumpers-L というメーリングリストのアーカイヴにいい解説があったようで、 グーグルのキャッシュ(リンク先はウェブ魚拓)で見ることができました。 「男らしさ、強さ、復活のシンボル」としてのオークの葉とどんぐりは少なくともローマやケルトの文化にまで遡ることができ、 古くからいろいろな国の軍隊で使われてきたけれど、近代においては英国の影響が大きいということが書いてあります。 英国ではもともとケルトの文化が受け継がれているうえに、チャールズ2世が ウスターの戦い(1651年)でクロムウェルに大敗したときオークの木の幹の洞に隠れて助かった という頼朝の洞穴みたいな「ロイヤル・オーク」の伝説があり、それによってオークの葉が軍服デザイン上も重要な地位を占めるようになったようです。 今でも近衛騎兵のヘルメットの飾りなどにオークの葉が見られます。19世紀あたりの、英国がスーパーパワーであった時代に、各国の軍隊が 英国のまねをしてオークの葉を軍服デザインに取り入れたということは、ありそうなことだと思います。

ちなみに「ウスターの戦い」のウスター(ウスターシャー)という地名は、ウスターソースのウスターでもあるそうです。

その1