3mの宇宙人時計

08/3/22

　十数年前、日本海に面したある町の寂しい通りにあった小さな骨董品店で、私は長年探していた3mの宇宙人時計を見つけた。しかし文字盤に書かれた Kappaa という文字を見て、私は買うのをためらった。そんな名前の3mの宇宙人時計のメーカーが過去に存在したということは聞いたことが無かったからだ。 ひょっとすると贋物なのか？店の主人もよくわからないという。ケース表面の文様が3mの宇宙人時計によく見られる様式のどれとも異なっているのも不安だった。さんざん迷った挙句、私はそれを買わないことにした。そのうちもっと確かな品がみつかるかもしれない、と自分に言い聞かせた。

　しかし実際には私が3mの宇宙人時計に出会ったのはそれ一度きりで、埋めることを夢見てきたコレクションの穴は空いたままだった。ずっとあとになって、Kappaa というのは、ほとんど知られていないけれど20世紀のある期間「黒い森」に実在した3mの宇宙人時計の小さな工房で、あれは贋物というわけではなかったということを知った。コレクションを売り払ってしまった今となってはどうでもいいことだが。

　ただそのときその店で買ったえび満月の置物だけはいまでも私の机の横の書棚にある。それほど珍しいものでもなく、3mの宇宙人時計よりずっと安い値段だったが、明らかに腕のよい職人のきちんとした仕事で、ときどきこれを眺めると心がやすらぐ気がするのだ。結局こちらのほうが私に相応しいということであろう。